第五章

6/6
前へ
/103ページ
次へ
「あ、一緒に帰ってく...」 二人の背が見えて、奈緒は思い切って亜美に言った。 「あのね、亜美。あたし、大事な用が出来たから、今日はカラオケやめよう!」 「え...うん、カラオケ...ね、」 「とにかく、あたし、」 少し遠のく二人に焦り、言葉が上手く出ない奈緒を救ったのは亜美の方だった。 「そんなことより早く追い掛けて!奪い返さないと承知しないよ!」 「うん、ありがとう亜美!」 「カラオケ行こうなんて話してたかなぁ...」 屋上を飛び出した奈緒を見送った亜美は、背伸びして呟いた。 「ま、いっか。」 夢中だった。 夢中で歩生を捜していた。 学校を飛び出し、一本道の歩道を左右見渡す。 帰るならこっち、だけど、もし比内さんを送ったとしたら、 「比内さんの家どっち!?」 少し考えて、奈緒は勘に頼る。 きっと、あたしは昨日悪い夢を見たんだろう。 だから、こっちが現実だったとしても、これはきっとー、 「虫の知らせって言うやつなんだ。」 真っ直ぐ続く道が終わりを告げようとしていた。 右?左?自問自答を繰り返し、奈緒は左に向かってその道を見渡す。 「...っ、いないじゃん。こっちじゃなかったのかなぁ...」 息を切らせ立ち止まり、疲れから足がゆっくりになる。 曲がった次の道。 不意に見た先に二人の背が視界に入った。 「...居た...」思わず呟き、思わず足が遠のく。 追い掛けたは良かった。 あたしが見た悪い夢が現実になったとしたら、そう思ったから二人を追ったのだから。 だけど、「あたし、歩生とケンカしてたんだった...」思わず電信柱の陰に隠れる。 ちらりと見た二人の後ろ姿は、楽しげな雰囲気で、これから比内さんが車に飛び出して、それを歩生が助けるなんてシチュエーションが全く想像できなかった。 「あたし、何してんだろ...」 ぼんやりと見たアスファルトが、滲んで見えた。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加