第六章

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母の宝石箱の中を確認するため、奈緒は階下に向かった。 飛び込んだリビングで目が合う博子を無視した奈緒は、和室に飛び込むと一目散に宝石箱を手に取る。 震える手に言う事を聞かせるように握り締めた手のひらに爪が食い込んだ。 「...探している物は見つからないと思うわよ」覗き込んで言った博子の言葉に奈緒は口唇を噛み締めた。 そんな言葉に悔しい思いなんてしていない。本当に悔しいのは、歩生を救えなかったこと。フラッシュバックする光景に涙を堪えた。 「やっと起きたか。少しは博子さんの手伝いをしたらどうだ?」 風呂から上がった父の声が聞こえた。 髪を拭きながらそう言った父にまた苛々が募る。 奈緒はぎゅっと手を握り締め、宝石箱を開けると、顔を起こした。 「あんな物、どうでもいい。それからあたし、二人には興味ないから」 父の反論の言葉など、もう入ってはこなかった。 宝石箱の宝石が、涙で滲んで光の粒が瞳の中で大きくなる。 何で、気付かない振りをしてしまったんだろう。 あの時、あたしは気付いていたはずなのに。 宝石箱の中から母に貰った御守りを取り出し胸に抱いた。 お母さんに助けてと言ったあの夜握り締めていたこの御守りを、目覚めた屋上の上で亜美と話した時も、追い掛けた歩生に声を掛けれずいた時も、ずっとあたしの手の中にあったのに。 「...救えなかった」そう、声になる。
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