第六章

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ゆっくりと上階へ向かうエレベーターの中で、奈緒は覚悟を決める。 今度は離さない。持っていることを忘れたりなんてしない。 ぎゅっと握り締めた御守りを胸に、エレベーターを下りた。 俯き座る影は、奈緒を見て視線を起こす。 「奈緒ちゃん...」 奈緒は息を呑み頷いた。 そして、おばさんの肩を掴む。 「何も言わないで。大丈夫。歩生に会ってくる」奈緒の強い眼差しに、おばさんは泣き笑い小さく頷いた。 病院の扉を開けると、躊躇わずベッドへ向かった。 そして、影の前声にする。 「誰?お母さんじゃないのはわかってる」 カーテンに、映るその黒い影が大きくなり、一瞬目を背けそうになった。 奈緒は思い切ってカーテンを掴むと、一気に引いた。 「なっ!?」 驚いた奈緒の前、母は辛そうな顔で歩生を見て、それから覆い被さる影を掴んだ。 「お母さんっ、」 大きくなったと思った影は、一つではなく、二つあったのだ。 一瞬の出来事だった。 何が起きたかを考える暇もないほど、それは跡形もなく消え失せ、目の前が光に覆われる。 激しい耳鳴りで頭が割れそうになった。 奈緒は、ただ眩しさで目を塞ぎ、 落ちる感覚に震えながら、御守りを握り締めた。
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