第六章

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「あ、あれー、赤坂くんと比内(ひない)さん?」 奈緒は水中から顔を出した瞬間のように大きく呼吸すると慌てて振り返る。 亜美の指差す方は、校庭で話す二人の姿。 屋上に吹く風。 校庭のざわめき。 手の中にある母から貰った御守り。 「戻った...」 「え?何?」呟く奈緒に不思議そうに声を掛けた亜美を見て、奈緒は呆然としていた。 「そりゃまぁショックだよね。一年生の比内玲奈(ひないれな)、可愛いって有名だもん。そんな子が、想いを寄せる赤坂くんと親しげに話してたら、そうなるに決まって...」最後まで言えず、亜美が驚いた表情で奈緒を見ていた。 言葉に詰まる亜美の顔が歪んで見える。 「...ちょっと奈緒...泣くほどショックだったの?ごめん...泣かないでぇ。」 亜美に抱き締められ、零れた涙に気付く。 歩生の笑った顔が視界に入る。 「ねぇ、奈緒」 呼ばれて頷く。 「やっぱり、このままじゃ駄目だよ。ちゃんと気持ち伝えなきゃ」 「...亜美ありがとう。あたし、行ってくる。今度こそ絶対に救うから」 「うん!...え?救う?」 「もう逃げない。これが最後のチャンスなんだ」 「う、うん。何かよくわからないけど、頑張って...応援してる!」 僅かに首を傾げた亜美は、いつもと変わらない可愛い笑顔で奈緒の背中を押した。 「あ、ほら...一緒に帰ってくよ?」 「亜美、全部終わったらカラオケ行こう!」 「いいね!」 二人は手を振り別れた。 そうー、 奈緒は、強い決心をした。 今度は逃げない。 お母さんがあたしに最後のチャンスをくれたのだから。 奈緒は立ち止まらず校舎の階段を駆け下りた。
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