第一章

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あれから、何度も季節が変わったけど、変わらないことがひとつだけある。 それは、変わらず母が居るということ。 花屋の前で足を止めると、菖蒲(あやめ)の花を手に取った。 「ご自宅用ですか?」 優しそうに笑顔を向けられ、首を横に振る。 「いえ、誕生日プレゼントです。」 奈緒は笑顔を返した。 青い空の下。 菖蒲の花を抱えた奈緒は、母が眠る墓地へと向かった。 ずっと、不思議なことなんてなかった。 当たり前のように母が居ることに。 小さい頃は、眠りにつくまで母が胸をトントンしてくれたことも、一方的だけど、話をしたことも、私にとっては何一つ不思議なことではなかった。 だけどー、 墓前の前に腰を下ろす。 母の好きな菖蒲の花を手向けた。 「ここへ来る度、お母さんはやっぱり死んだって実感してしまう、」 そう思う度、私は他の人とは違うんだと理解しはじめる。 目を閉じ、手を合わせた。 ーっ、 背中に感じた気配に、目を開け振り返る。 「歩生(あゆむ)」 「...何で今年は誘わねぇんだよ、」 同じ花を手に、隣に腰を下ろした歩生が、チラリと片目でこっちを見た。
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