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あれから、何度も季節が変わったけど、変わらないことがひとつだけある。
それは、変わらず母が居るということ。
花屋の前で足を止めると、菖蒲の花を手に取った。
「ご自宅用ですか?」
優しそうに笑顔を向けられ、首を横に振る。
「いえ、誕生日プレゼントです。」
奈緒は笑顔を返した。
青い空の下。
菖蒲の花を抱えた奈緒は、母が眠る墓地へと向かった。
ずっと、不思議なことなんてなかった。
当たり前のように母が居ることに。
小さい頃は、眠りにつくまで母が胸をトントンしてくれたことも、一方的だけど、話をしたことも、私にとっては何一つ不思議なことではなかった。
だけどー、
墓前の前に腰を下ろす。
母の好きな菖蒲の花を手向けた。
「ここへ来る度、お母さんはやっぱり死んだって実感してしまう、」
そう思う度、私は他の人とは違うんだと理解しはじめる。
目を閉じ、手を合わせた。
ーっ、
背中に感じた気配に、目を開け振り返る。
「歩生」
「...何で今年は誘わねぇんだよ、」
同じ花を手に、隣に腰を下ろした歩生が、チラリと片目でこっちを見た。
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