第一章

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「奈緒、父さんは博子さんと結婚を前提にお付き合いしてる、」 反射的に振り返る。 「ここで一緒に暮らすことになるから、おまえももっと博子さんとー、」 手を振り払った。 「何の相談もなしで決めたの?」 「それはー、」 「ここで住むのは絶対認めない、」 奈緒は靴を履くと、玄関の扉に手を掛けた。 「...っ、お母さん」 咄嗟に振り返ると、二階から下りてきた母の後ろ姿が視界に入る。 リビングに向かう母が気になり、戻ろうとした瞬間ー、 「奈緒!」 目の前に居た父の声に呼ばれ、奈緒はふと我に返った。 「人の気も知らないで!!」 そう、言葉を残し、家を飛び出した。 しばらく走り続け、不意に立ち止まる。 見上げた月が明るいオレンジで、目が離せなくなって。 小さく息を吐いた。 「お母さんが亡くなったあの夜は、もっと大きくて、もっとオレンジ色だった気がする、」 そっか。 私が小さかったから、そう見えたんだね。 腕で涙を拭ったー。
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