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「奈緒、父さんは博子さんと結婚を前提にお付き合いしてる、」
反射的に振り返る。
「ここで一緒に暮らすことになるから、おまえももっと博子さんとー、」
手を振り払った。
「何の相談もなしで決めたの?」
「それはー、」
「ここで住むのは絶対認めない、」
奈緒は靴を履くと、玄関の扉に手を掛けた。
「...っ、お母さん」
咄嗟に振り返ると、二階から下りてきた母の後ろ姿が視界に入る。
リビングに向かう母が気になり、戻ろうとした瞬間ー、
「奈緒!」
目の前に居た父の声に呼ばれ、奈緒はふと我に返った。
「人の気も知らないで!!」
そう、言葉を残し、家を飛び出した。
しばらく走り続け、不意に立ち止まる。
見上げた月が明るいオレンジで、目が離せなくなって。
小さく息を吐いた。
「お母さんが亡くなったあの夜は、もっと大きくて、もっとオレンジ色だった気がする、」
そっか。
私が小さかったから、そう見えたんだね。
腕で涙を拭ったー。
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