少しだけやってみたかった

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少しだけやってみたかった

 結局私は行かなかった。何故なら妻鹿悪に病院に用事があると言ったからだ。流石にそこまでしてやるのだったら引くし、あいつ自身が「渡すだけ」と言ったのならわざわざ別の部屋に招くのもおかしいと周りは思うだろうからな。まあ事実病院には行くんだなこれが。  正確には病院には大した用がないが前回の血液検査の結果を取りに来たのだ。何故そんなことをしているかというとこれから献血に行くのだ。献血ルームはとても過ごしやすいとの事を聞いていたので少しだけ興味がわき駅の近くにあるとのことなので行くことにした。中学の制服なら怒られるショッピングモール通過をしてなるべく早く駅に向かうことにしよう。そう決意した時 「あれ〜なんか見たことのある制服を着た女の子がいるぞ〜」 「てか釜山じゃね?」 「あっマジだよちょー受ける!」  ここはまだ通学区域だったので完全に油断してた。三人組のカーストトップらはタピオカドリンクを片手に片方だけイヤホンをして制服の上からパーカーを着ていた。私は面倒になるのが嫌で早足で去ろうとしたら見事に左手をギリリという効果音が付きそうな勢いで掴んでくる。 「うちら友達じゃん?ちょっと来なよ」  手を掴んできた一番の厄介なやつはそう耳元で言い放った。ズリズリと半ば引きずられながら連れてこられたのは障害者用トイレだった。中は一面の白だったけど彼女たちの笑顔で際立って輝いて見えるのは気のせいだろうか。その後はお察しの通り殴られ、蹴られ、水に突っ込まれ、服を脱がされた。何にも感じずにボーッと座っていた体制から動かされたので不満には思ったがすぐにやつらはやめるさ……そう思い込んでいた。だが、その日は違ったのだ。 「マジこいつつまんねー頭でも打ち付ければ?」 「いいアイディアじゃん!そうしよう!!」  頭を鷲掴みにされて頭を便座に打ち付けられる。今までとは違う痛みが体を駆け巡る。そしてボタボタと何かが落ちて暖かくなる。彼女らはそんな私を見て恐れをなしたのか頭を離し震えている。視野がゆっくりと狭まってくるのを感じながら私は彼女たちを最後まで見つめた。 「最後まで……私の死に様を…焼き付けとけ………そして罪悪感で……さっさと…死ね!」 最大級の笑顔でそのセリフを吐いた後私は意識を失った。ただ少しだけ後悔したことがある。私は物書きに………なりたかった。  …………………………………永遠と終わりのない場所。小さな頃想像したことのある世界。天国と地獄があっていい人は天国へ、悪い人は地獄へ。  そんな想像ばかりしていたころに一番近くにあった天国は電車だった。徒歩なら何時間もかかるのに電車に乗れば確実に早くつく。でもそれに乗るには許可がいる。特別なパスがいる。それを何度でも有料で買って短い命を繋ぐ人としばらく通えるパスを持っている人。私には一体いつ貰えるのかわくわくしていた。  でも現実は違った。妄想だけで生きてはいけなかった。小説とは、漫画とは、アニメとは違う。いじめられたら助けてくれると思った。他の先生が気がついてくれると思った。お母さんがお父さんが通報してくれると思ったが……どれもただの妄想だった。 「あるショッピングモールの障害者トイレに頭を強くぶつけられた少女が遺体となった状態で発見されました。少女はまだ16歳でしたがクラスではなかなか浮いていたとのことでしたのでもしかしたら自殺の線も考えれるとのことでした。」 「通報者は障害者トイレにいつものように入ろうとしたら扉の向こうから異臭がしたとのことでした。発見したときには事故から一週間以上経ってると推定されてます。」  テレビからそう聞こえるが私は一週間ではなく二週間だ。そして浮いていたけど何も私だけではない人も浮いていた。トップスリーはコロコロと標的を変えていたのでたまたま私が長い間狙われ続けただけだ。でもまさか死んでもなおこの世界で幽霊として漂い続けるとは……まあおかげでニュースは見れるし、殺した奴らのあの後も見れたしいいなー。実体がないだけでこんなにも心が軽くなっていくなんて。私は物は持てないが空中に落書きは出来る系だった。小説をいっぱい書いて、警察のところに直接乗り込んで調査状況を聞いたりもしてた。正直言ったら生きていたときよりも充実してる。ある時外を浮いて移動してたら同士のような者がウロウロしているのを見つけた。 「こんにちは何かあったの?」  私から声をかけると回覧板のようなボードを持っていてその中身と私の顔を見比べている。 「あーー!!!全く探しましたよこの三週間!何処に行ったのかと思ったら……」 どうやら私を探していたらしい。ため息をついて私をグイグイ連れて行こうとする。 「なんで探してるの?だって私と貴方は初対面だよ?」 私の疑問を晴らすためにその人は背中から大きな鎌を取り出した。流れるように首に刃先を持ってきてこう言った。 「こんにちは釜山 実彩子さん。僕は死神です。貴方は他殺でよろしいですね?」
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