コミュ力お化けの底力

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コミュ力お化けの底力

 トンネルを抜ければ雪国……なら随分嬉しかったのにな。私は溜息をついてその考えを振り払おうとしていた。今例の死神が先程声しか聞こえなかった上司さんと楽しそうに(?)話しているため事実一人だ。  帰ろうにも金色の出口は一方通行だった。文字通り出口なわけで入り口は別のところにあると考えたほうが早いだろう。そんなかんやで帰れない、道を知らない、一人ぼっちという最悪の三拍子を絶賛刻んでいるのだが説教はいつ終わるのやら。 「いやーごめんごめんお説教が思ったよりも長くなっちゃった。」  結局説教だったのね。まあ終わったんならちゃっちゃと案内してよね。随分暇だったから座り込むところだったよ……そんな足はないけど。じゃあちゃっちゃと案内してよ。 「お嬢ちゃんコイツはなーーーーんにも教えてないし、案内なんか頼んだらいつになるかわかんないから責任持って俺が案内するわ。」  死神の後ろからにゅーっと手が伸びてきてそういう。死神が場所を少し移動するとさきほどの上司の顔が見えた。確かに今だにここがどこか、死神はどんな名前なのか、どういうことをするのかわかんないしなー。 「死神の名前だけ聞いてもいいですか?」  上司さんは死神の背中を勢いよく叩くとか細い声で 「田畑 幸之助」  と答えてくれた。たば こうのすけ……私よりは珍しい名字だな。 「田畑さんお世話になりました。上司さんにあとは任されるみたいなのでゆっくりしていて下さい。」  私は上司さんの後についていったが田畑さんの方を向くとまだ同じ場所に立っている。お世話になったし手でも振ると表情が明るくなって両手を振りどれだけ遠くても振る感じがした。 「随分田畑が世話になったな。……済まない自己紹介が遅れた。俺は関宮 和之ってんだ。ちなみに男だ。」  最後に性別を付け加えたのは特徴的な長い髪の毛のせいだろう。肩甲骨まで届く一つ結びはなかなかの長髪という証拠だ。一時期そこぐらいまで伸ばしていたが髪が重いと感じていたぐらい大変だったことを思い出す。せきみや かずゆき……田畑さんと生前仲良くしていたのか気になるな。 「確か釜山……だよな。お前ここがどことか、自分がこれから行く場所とか、職場とか田畑に言われたか?」  ほとんどノーヒントですね。そんなことは言いたくないので無表情だったのを笑顔に変えた。そうすると察してくれる人は察する。田畑さんは何も話してくれなかったことを。 「私は田畑さんとは違う職場につくんですよね?」  察してくれた関宮さんに田畑さんがくれた情報が正しいか答え合わせをしてみる。肯定の頷きがあったためそこは安心している。 「じゃあ簡単に説明させてもらおうか。ここは魂の記憶を消したり、生まれ変わらせる手続きをしたり、魂を一旦ここに集めたりするのが主な役割だ。このあと輪廻転生という概念通り転生をしたり、魂を永遠と閉じ込めたり、地獄みたいな場所に送ったりも業務ではある。」  つまりここは生きている人がいる世界とも天国とも地獄とも違う世界なのか。てっきり死神は地獄とかにいると思ったし、直通で行けると思ってた。まあ詳しい業務について説明されたが難しすぎて覚えられず簡単な説明をされた。  ここは魂の選別をする場所でこのあとずっとここにいるか、辛い目に遭うか、全く違う人生を歩むかの三択になるわけだね。そしてそれぞれ担当する人も違う。担当する人は毎年何人も選ばれているらしいが大抵は他殺か殺人の被害者に当たるらしい。だが、その人たちは5年ほど務めたら記憶を消され転生ルートに進むらしい。  基本的にルートは4つ。他殺、犯罪歴持ちは妄想マンションと走馬棟コース。病死、寿命死、過労死は輪廻転生コース。そして無差別選出の案内人コース。 「関宮さんもう一つはどこですか。ほら自殺された方は?」  そうまだ自殺された人が何になるか聞いてないのだ。頭を掻く仕草をすると自殺した人の説明をしてくれた。 「わざと教えなかったんだがしょうがない。実はな自殺した人は……俺ら死神なんだよ。」  深刻そうな顔で言う関宮さんだが、私は心底不満そうな感じを醸し出していた。だって自殺なんて責められるようなものではないし、むしろ勇気のあることだと思うけど。 「関宮さんたちは勇気を持って生きてきたんだね。のほほんと生きてるだけではなくてギリギリのところまで踏ん張ってきたんだね。」  そうしたら田畑さんも自殺しちゃったんだ。すごいな。でも自殺者限定だから広い現世を幽霊でも歩き回るのは苦労すると思うな。そう感心してると関宮さんはクルリと後ろを向いて顔を両手で覆った。 「俺は釜山と出会えてよかった。自殺とか言うと暗いとか情けないとかイメージがあるから言わないようにしたんだ。」  そんな状態の男の人は初めて見たのでどうすればいいかわからず背中が焦げるくらい擦った。
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