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ひさしぶりに見る家の外見は記憶そのままだ。
さえない住宅街の一角。昭和の終わり頃にはやったーーそうして現在ではくたびれきった一戸建ての建売住宅。それ以上でも以下でもない。
ことさら荒廃した印象もない。
ペンキのはがれた、安っぽい門扉には閂さえかけられていなくてーー開けっ放しであった。
そうして玄関の引き戸も無施錠。
冬の陽が落ちるのは早い。あたりはもう暗いのに不用心きわまりない・・・。
まあ、『あの頃』も母親はそうだった。
戸締りに注意をはらうこともなくなり。当時、流行っていた押し買いやら何やらーー何度、ひっかかりそうになったことか。
現在は、どのくらい程度がひどくなっているだろう。
どこかで犬が鳴いている。鳴き声が遠くなったり、近くなったりするようだ。
がらっ
勢いよく引き戸を開ける。
玄関には電灯が点いていない。二階へと続く階段も、ほとんど真っ暗だ。
けれどもーー廊下の奥の食堂兼リビングからはあかりが漏れている。
こちらも記憶のままだ。屋内がゴミ屋敷状態になっている気配はない。
むしろーーあの頃よりも、片づいている印象だ。
自分は靴をぬぐと、ずかずかと家のなかにあがる。
勝手知ったる自分の家なのだから。
そうしてーー用事がすめば、『自分だけの家』になる・・・。
(悪いな、母さん)
食道の入口のアコーディオンドアを開けると。
母親がそこにいた。
低い背。地味な服装。実際の年齢よりも老けた顔。何もーー変わっていない。
食堂のなかも、『あの頃』のままだ。ほとんど何も変化などない。
まるでーー昨日外泊をして。自宅に戻ってきた。ただ、それだけの時間しか経過していない。
そんな錯覚をおぼえるほどに・・・何も。
「おかえり〇〇(自分の名前だ)」
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