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彼が呼吸をするたびに漏れ出るにんにく臭が、隣席の志賀の鼻腔を刺激する。
なるべく匂いをかがないようにしようと息をひそめる。
が、それも長くは続かず、結局吸うはめになる。
魔王の毒ガス攻撃によってHPが徐々に削っていかれる、そんな感覚に陥る志賀。
誰か俺に回復魔法を――そう志賀が助けを願ったその時だった。
「そういえば志賀」
「ひゃいっ?!」
突然、低い声音で名前を呼ばれ、肩を飛び上がらせる志賀。そんな彼に構わず我里久は口を開いた。
「頼んでいた水道業者の手配は済んだか? 何――? 済んだのならなぜ報告しない。
いいか、私への報告が一分、一秒遅れるごとにお客様にそれだけ迷惑をかけると思え。
お客様との信頼関係を築いてこそ商売というものは成り立つのだ、くれぐれも報・連・相を忘れるな。
それと作ってもらった請求書、「手数料」の「料」が「量」になっている。これでは相手に笑われる。
社の看板を汚すようなことは許されない、作り直しだ。
それから最近風邪が流行っているそうだが、体調管理に気を付けとけ。体調管理も仕事のうちだ。
仕事には責任が伴う。多少頭痛や吐き気がしたとしてもまずは出勤しろ。
苦しみながら出勤するのが嫌だというなら日ごろからの体調管理を気を付けておくことだ、わかったな? それから――」
などなど矢継ぎ早に言葉を放つ我里久。我里久が口を開くたびに毒ガス攻撃を受け、ダメージをくらう志賀。
HPが半分ほど削られたところでようやく攻撃が治まり、志賀はその隙をみて戦線離脱。
人気のない外階段の踊り場へと非難し、HPを回復させようとズボンポケットのタバコに手を伸ばした。
火をつけ、一息吸い込む。そして、煙を吐き出すと同時に嘆息も漏れた。
――死ぬかと思った。
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