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以前、新入社員にタバコ臭を注意したことがあった。
別にタバコを吸うなとは言わない、それなりのエチケットを守れ、と。
そしたら翌日から来なくなった。
頑是無い若者を一から育て上げるにはそれなりの労力を使う。
そんな高い対価を払ってきたのにも関わらず、我里久の思いが通じることなく数多の新入社員は見事に散って行った。
――注意したらどうなる? またあいつも辞めるのか?
波風を立てず穏便に解決させるには、志賀自身に気づかせるしかない。
ならばどうする、と低く唸りながらしばらく思案。
そこで妙案が浮かんだ。
これしかないか――顔を引き締め、鏡に映る自分へ決心を示すように頷いた。
そして昼休み開始のチャイムが鳴ると同時に、我里久は近所のラーメン店へと向かう。
にんにくたっぷりのラーメンと餃子を注文。完食し、会社へと戻る。
午後の業務が始まり、何食わぬ顔で隣席で作業する志賀に話しかけた。
案の定、嫌悪感を滲ませた表情を浮かべる志賀。
――頼む、気づけ。
席を立ち、外へ向かう志賀の背中を見送りながら、そう願う我里久。
人の振り見て我が振り直せ。あえて自分が反面教師となることで相手に気づかせる。
一人の社会人として、そして一人の人間として立派になってほしい――。
それが魔王なりの親心であった――。
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