第一候 東風解凍(はるかぜこおりをとく)

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第一候 東風解凍(はるかぜこおりをとく)

*清花=中学3年生前、舜一郎=大学2年生前 ピュウウウと風が吹く。 「うう、寒いですわ……」 「清、あともう少しで駅だから頑張ってくれ」 今日は2月4日。節分が終わり、立春。昔はこの日から1年が始まった。しかしまだ空は冬の様相を帯び、春の兆しなどどこにもない。道歩く人も皆、厚手のコートを着て縮こまって歩いている。その歩く男が全員、清花を見ていることに彼女は全く気がついていない。舜一郎はいつものようにその度に牽制している。 「は、はい……暦は立春ですのに外はまだ冬ですわね……」 舜一郎は清花の手袋を見た。 「そんなことないぞ」 「えっ?」 「清が今している手袋……色をなんというか知ってるか」 「分かりませんわ」 「梅紫と言うそうだ。明治時代以降に着いた名前だから比較的歴史の浅い色だが」 「まぁ、そうでしたの。……わたし、そんなこと意識せずに選びましたわ」 「そうなのか? 清は色の使い方が上手いな。鴇色の着物も似合っている」 「ふふ、ありがとうございます。……あら、見て下さいまし、舜一郎さん。梅が咲いていますわ」 清花は民家に植えられている梅の木をそっと指差した。赤い小さな花が香しい匂いを風に乗せている 「本当だ。……はるかぜこおりをとく、か」 「えっ?」 「"東風解凍(はるかぜこおりをとく)"。季節の変化を伝える二十四節気をもっと細かく区分したのが七十二候だ。今、言ったのはその第一候で東からの暖かい風が厚い氷を溶かし始める。という意味だ」 「知りませんでしたわ。……ふふ。先ほどまだ冬だと申しましたが、少しずつ春は来ているのですね」 「うん。……せっかくだ。梅を観に行かないか。少し遠くなるが小石川植物園の梅はもう咲いているはずだ。 「ぜひ!」 清花は目を輝かせて頷いた。
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