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その後朝一で通りすがった小さな個人医院の医者を宥めすかし、応急処置だけしてもらった。
「それでいいの? 私みたいにしっかり診てもらえば良かったのに」
トラックの助手席にて、脚に包帯を巻いたルイーズが尋ねる。
「お前が手当てするんだろ」
彼女と生きるのに、こんな世界に身を置く必要は無い。俺はさっさと国を出ることに決めた。
「日本でいいか? 少なくともこの国よりは平和な国だ」
もっとも、裏の世界は変わらないのかもしれないが。
「言葉が喋れないじゃない。私もシャンも」
「どうにかなるだろ」
島国とはいえ先進国だ。英語が解る人間がいない筈はない。
「なるかしら」
ふふっとルイーズが小さく笑う。
「ところで、どうしていつも私にそこまでしてくれるの? 私はシャンの人生に足手まといかと思ってたけど」
本気でそう思ってるというよりは、茶番のような会話を楽しみたいようだ。
「そんなことないから取り返しに行ったんだろ……言い忘れたこともあったからな」
「なになに?!」
彼女が身を乗り出す。薄墨色の瞳の輝きから鑑みるに、察しはついているのだろう。
なんせ人生で初めて言うのだから、言葉にするには時間が必要だ。
「……100分したら言ってやる」
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