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もうオレさ、あまりに進展ないもんだから真剣にどっかから当て馬の調達しようとしてたとこだよ。
「日永さんのお友達だね。
初めまして網代冬悟です」
それをだよ。オレに握手を求めてるこの眼鏡ダンディー誰なんですか、日永春真さん。
初めて居酒屋で夜飯食おうなんてお前に誘われたから来てみたら、こんなサプライズゲストって。嬉しくないのは分かってもらえる?
「どーも初めまして、観月秋彦です。あーちょっとオレ、状況なにも分かってなくて。網代さんって春真の仕事関係の方なんですか?」
一応オレたちより年上に見えるから穏便に振る舞うけど。社会人として。
──あとで泣くまで事細かに説明してもらうからな春真ぁ。
「あ、秋彦あのな、網代さんはよく行く本屋の店長さん。帰りに本屋に寄ったら飲みに誘われたけど、お前が来る日だし──そしたら網代さんがご一緒にって言ってくれたから……」
雑、且つ、ツッコミどころ満載すぎ。
ほんと後で覚悟してなね。
「僕が無理を言ったんだ。新しい出会いは多いほうが良いからね。幼なじみなんでしょう?いいね、麗しい友情の話なんかを聞かせて欲しいな──今日はぜひ僕持ちで。ね、楽しく飲みましょうよ観月さん」
鮮やかに引き取るねナイスミドル。
奢りって言うなら遠慮しないけど。
網代の思惑が気になる。オレまで呼んでどうしようって魂胆?まあ当然、春真を狙ってんだろうな。
さっきの口ぶりだと春真は断ろうとした?だからオレも同席させた?ついでに関係を探るつもりで。
くっそ。
やっぱおまえ男にもモテるんじゃん。
人当たりは良さそうだけど、なんか本屋っていうよりホストクラブのオーナーとかインテリヤクザっぽいんだよね。
オールバックに銀縁眼鏡とかお高そうなスーツとか外見のせいだけじゃなくてさ、目が笑ってないんだよ。抜け目なく他人を観察してる感じ。
こういう裏表の有りそうな人間、正直オレは大好きだけど敵に回すと嫌なタイプだよなあ。
そんで多分……敵なんだろうね。
「で、入手困難な海外版の原書を網代さんが取り寄せてくれてー、それが縁で話すように──秋彦ぉ、聞いてる?」
はいはい、聞いてるよ。
よくある馴れ初めだね。
ていうか、お前の言う本屋って駅前にある大手の店じゃん。大っきいビルで、あれ全部本屋でしょ。そんなとこの店長が個人客と一々懇意にする?下心溢れまくってるの分かんないの。
春真は網代に言われるがままに飲んじゃってるから、そろそろ呂律も怪しいし。
大体こいつ、さっきから強い日本酒ばっかり勧めてくるんだよ。完全に潰しにきてるだろ。オレが真性のザルじゃなかったらどうなったと思ってんだ。
「日永さんはもう回っちゃったかな。
ノンアルコールにしておく?」
白々しく親切ぶってるな。
お見通しなんだよ。
オレもよくやる手だから。
「ん。オレあんまり酒つよくなくてー。
すいません」
「はは。謝ることはないよ。観月さんはまだまだ飲み足りないみたいだね?」
酒には一切酔いませんからね。
教えませんけど。
「いやーオレ、顔に出ないだけっすよ」
「ああ、そうなんだ。そういう体質の子は飲まされ過ぎて大変そうだね」
子。格下扱い、してくるねー。
口調だけは親身だけど明らかに信じてないし。人のこと小馬鹿にして笑ってんでしょ。
あはは……まいったな。ホントこいつ同類。
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