百年桜

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私は役所に行った帰りに、何もない公園で絵を描く少年を見つけた。 その少年が描く絵が気になり、遠巻きにゆっくりとその少年の後ろに近付き、その絵を覗き込んだ。 見事な色使いの絵だった。 太い枝に見事に花を咲かせた桜の木の絵だった。 「ほう…」 思わず私は声を出してしまった。 その声で私が絵を覗き込んでいる事を少年に気付かれてしまった。 少年は慌てて描いている絵を胸に抱くように隠した。 「すまん…。あまりに見事な絵だったので、つい…」 私は帽子を脱いで少年に頭を下げた。 少年は私を一瞬だけ睨む様に見て、また画用紙を乗せた画板を膝に広げた。 私は公園の入り口にいたアイスクリン屋のパラソルを見つけて、二つ買った。 そしてそのアイスクリンを持って少年の横に座る。 「勝手に見てしまったお詫びだ…」 私はそう言って少年の前にアイスクリンを差し出す。 しかし少年は受け取ろうとしなかった。
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