彼女の日常 4-1

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「なぁいぐさはあるんか」  柄の悪い若くとは言えないぐらいの中年の高い身長の男性と小型の年寄りと言って いい女性の二人組がレジの前を通り過ぎながら問いかけて来たのだ。  その身勝手な動きの為に反応が遅れたが前に買っていた客が居たのを知っていたの で、あるだろう場所を伝えたが正確に教えろと通り過ぎて少し離れた場所で早く言え と言うように立ち止まって待っているのだ。  神月空は正確な場所は知らなかった為に別の店員に聞こうと電話を掛けるが中々で ない。それで繋がらない事で探す方が早いと思ったのか立ち去る姿を目撃すれば溜息 を吐いて、仕事に戻って品出しをしていた時だった。 「空。死神って大変だろう? 興味本位でやろうとした仕事を後悔したん じゃあないか」  自身の背中の方で見知った声音が聴こえて来たのだ。振り向けば自分より死神歴が 長い熟練の神月秋君である。地獄に何名遅れたのか知りはしないが、多分百も近いだ ろうなと神月空は思った。 「……おーい。空、無視しないでよ」 「ごめんなさい。驚いちゃって」 「ならいいけど。で、どうなの死神という仕事をしてみてさ。結構つらいだろ」  死神の仕事は辛いか……どうなのだろう。神月空は問われた言葉を脳内で復唱 して、自分がどう思ってるのか考える。 「んー、確かに冷たい言葉とか投げかけられて心が挫けそうになりそうな処あった けどね……」  神月空は神月秋にニッコリと良い笑顔を浮かべて。 「自分が付けた評価でうざったい相手が地獄に堕ちる事を考えたら最高じゃない? 死んだら、どれだけ苦しくても逃れられないんだから」 「……良いね最高だよ空。どうせならお前とずっと仕事していたいね」 「ありがとう。気に入ってもらえてよかった」  神月空と神月秋との間にほのぼのとした空気が流れていた。だが、 「おいッ。ないやないか」  そんな声が響いたのだった。神月空は声に驚いて肩をビクッと揺らす。その仕草 を見た神月秋は無感情な何も読み取れない表情で声の主に視線を向けた。 「うわ……恥ずかしい人間。店の中に響く声音で言うとか脳が腐っとるとしか 思えない」 「ちょっと秋さんは静かにしてて。このお客さんは面倒な客で礼儀なんて持ち合わ せてない脳内お花畑の人間だから。えっと少々お待ちくださいッ。別の店員に聞い てみますから」
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