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さん
○
部屋でのんびり寛いでいたら、ピンポーンとインターホンが鳴った。
近頃物騒だからカメラモニターを確認。相手はまともん。手にスーパーの袋を提げている。
見なかった事にしてそのまま部屋のベッドにダイブ。多分アレだ。この前の『看病するよ』のパターンと同じで、人んちで料理する事が目的なんだろう。
何度もインターホンが鳴り、そろそろ諦めたかなと油断した時に家の窓ガラスに狙撃音がした。しかも段々私の部屋に近付いてくる!
慌てて他の部屋に移り外を覗くと、そこにはのど飴を投げるまともんの姿があった。
「……損害賠償請求しますよ」
「藻部! 差し入れ持って来た!」
「そうですか。では玄関のドアノブに掛けておいて下さい。さようなら」
「新作のダッツも入ってるのに?」
これみよがしにお高いアイスを見せつけるまともん。新作と言う言葉に、万年貧乏性の私には抗うすべも無く、すんなり彼を部屋に招いてしまった。
『藻部はゆっくりしてて。俺がなんか作るから』
二度目の来訪でキッチン周りを全て把握したのか、慣れた手付きでボウルや調理器具を取り出している。
収納棚からティーポットを見つけると、レジ袋の中からオシャレなロゴの紅茶を開封して、優雅な所作でお湯を注いだ。料理歴は私より少ないはずだが、こだわりや見せ方につい魅入ってしまう。ただ残念な事に、我が家にはポットはあってもティーカップやソーサーがない。代わりにあるのは、ゴリラや大仏の形といったクセの強いマグカップ類のみだ。
少しでもマシなカップを見つけたいのか『藻部、来客用のカップはどこ?』と尋ねてきた。しかしモブキャラの住居に来客イベントなど起きるはずもなく、出落ち要素満載のカップだけが所持を許されていた。結局、まともんはカモミールの香りが漂うモアイ像のマグを使用せざるを得なかった。ちなみに私は手足の生えたマグだ。
美少年の口元に何度もモアイが運ばれる様は、非常にコミカルだった。
他にもワイルドなマッチョマグや横綱マグなど色々あったが、どうも生理的に受け付けないタイプのマグらしく、彼は渋々モアイをチョイス。
やはり気に食わないのか、『百均にあるシンプルなものを買いなよ』と何度も購入を勧められる始末。
まぁ、それに関して異論なし。
まともんとの交流で出落ちマグから普通のマグ解禁となったのか、後日、家に白いマグカップが増えていた。
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