さん

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 紅茶を飲んでまったりする間に、まともんはいそいそと何かを作る。 『豆乳クッキーを作るんだ』と嬉しそうにスマホレシピを見せつけて、イケメンがキッチンに立つ。  動画で作り方を確認するまともんは、普通に絵になるし、我が家でこんな美少年が料理をすること事態現実味がない。 せっかくなので『ハニー、今日はビーフストロガノフを作るよ』『まぁ素敵ねダーリン! デザートはあるのかしら?』『もちろんだよハニー。キミの大好きなプリン・ア・ラ・モードを用意してるさ! 濃厚な甘みが大人気なんだよ。ま、君の方がスイートだけどね☆』みたいなアテレコを脳内で当ててみる。うーん、全然似合わない。 「藻部、あとは焼き上げるだけだ。オーブンの使い方を教えてくれないか?」  ルンルンのまともんが、可愛く型抜きしたクッキー生地を見せつけて、私を現実に引き戻した。初めてにしては上手に作れている。 「軽く予熱してから焼こっか」 と、まともんの側に近寄った時にガチャンと音がして誰かが帰って来た。ーー私の兄だ。  兄がキッチンと隣接したリビングに入るなり、まともんはギョッとした顔になる。当然だ。だって、私の兄はーーーーゴリラなのだから。 「えっ……藻部? ゴリラが入って来たけど」  イケメンは驚いた顔も綺麗なままだ。私はまともんに『あれは私の兄だよ』とはっきり告げた。 「兄? どう見てもゴリラだろ? 何の冗談だよ」  私にもよくわからない。モブとして生まれたから、“兄はゴリラ“という意味不明な家族設定にも疑問を持たずに受け入れてきた。兄も何かしらゴリラが必要な時にモブゴリラとして役割を果たすのだろう。だが、まともんの言う通り、冷静に考えればトチ狂った家族構成である。  ゴリラの兄は比喩(ひゆ)ではなく、びっしり黒い体毛に覆われたマウンテンゴリラだった。 しかも、ちゃんと服を着ていて、朝には学ランも着こなす。常に前のめりの二足歩行。年齢は多分高校三年生。まぁ、学ランから推測しただけで詳しい事は不明。 趣味は筋トレ。プロテインを浴びるほど飲むけど、草食のゴリラにはどちらも不要なはずだが、兄は取り憑かれたようにダンベルで遊ぶ。……そんな話を()(つま)んで説明したが、まともんはまだ信じられないといった表情で(ゴリラ)を凝視していた。
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