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『お邪魔してます。藻部……さんの友人の真友といいます』
戸惑いを隠せない顔のまま、会話を試みるまともん。
残念だけど、兄は話せない。おそらくウホホホホッといった鳴き声を聞かされるだけだろう。
「お前が出酢夜の友人?」
しゃ、喋ったぁァァァ! まさか日本語を操れるとは! あ、でも学校に通っているんだし、普通の事……かな?
「そうです。……あの、お兄さんはなぜ、そんな姿をしているんですか?」
果敢にもゴリラにゴリラ姿の理由を尋ねるイケメンまともん。妹の私でも出来ない事をやってのける姿に痺れる憧れるゥ!
すると、ゴリラの逆鱗に触れたのか、兄はまともんを隅に押しやりドンッと壁を叩く。
「……そんなに理由が知りたいか?」
まともんから僅か数センチしか離れていない近さで兄が彼を脅しつける。
私は兄が意思疎通できる事実にショックが大き過ぎて、ゴリラの壁ドンにまで注意を払えなかった。
「教えてもらえるなら、ぜひ」
かなり危険な状態にもかかわらず、彼は真っ直ぐゴリラを見つめ、堂々と答える。
スラリとした細身でありながら、度胸は人一倍あるらしい。
「……いいぜ。でもただでは教えられねぇな」
ゴリラ兄が妙に粘着質な声色を使って更に距離を詰めた。そして『俺のモノになるなら、全部お前にさらけ出してやるよ』とゴリラがいきなり欲情してしまった。
やめろ、妹の前で【獣✕美少年】みたいな特殊BLを展開するんじゃない! お前はモブゴリラのままでいろ。獣の分際で欲を出すな!
焦る私に構うことなく欲情ゴリラが、まともんが逃げないように両腕を掴み、ハードBLを始めようとしている。さすがにゴリラ相手では発光大名の時のような反撃は厳しいらしく、苦しそうに眉をぐっとしかめた。万事休す!
「兄……お兄ちゃ……兄貴……兄さん、やめて!」
私は兄を呼び止めた。過去に一度も会話をしなかったせいで、兄の呼称がブレブレではあるが、友人の貞操を守るのに必死だった。
「お願いだから、私の友達に、手を出さないで」
ゴリラはちらりと私を見た後、まともんから手を離した。拘束から解放されて、彼はふぅーと息を吐く。
そして意外な事を口にした。
『藻部のお兄さん、何でそんな被り物を身に着けているんですか?』
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