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真顔でゴリラの体毛を指差すまともん。
いやいや、それ被り物じゃなくてナチュラルですよと言いかけて今度は私がギョッとした。
「ふーん。お前よく気付いたな。……今まで誰にもバレなかったのに」
黒い体毛に覆われた手が、自分の頭部を鷲掴みグワッと持ち上げるゴリラ兄……の下から、人間の顔が出てきた。しかも中々のイケメン。モブ顔の私とは造りが違う。
「妹ですら、俺をゴリラだと信じ切っていたぜ?」
ドヤ顔で語る偽ゴリラの兄。
あっけにとられた私の脳内は軽くパニック。
えっ……どういう事? 四六時中ゴリラの着ぐるみ着て生活していたってわけ? 家族の前でもゴリラを装う必要あったの? もはや何の為にやってたのか意味不明過ぎて言葉が出ない。
「真友と言ったな。俺の正体を見破った褒美に教えてやるよ。俺の名は“藻部 大河 ”仲間からはTiger《タイガー》って呼ばれてる。お前も呼んでいいぜ」
「タイガーなのにゴリラの着ぐるみなんか着てるんですか? 変わってますね」
どうでもいいやり取りを続ける偽ゴリラとまともん。
兄の言葉を聞けば聞くほど沸々と怒りが込み上げてくる。
藻部家の一員のクセに何だそのシャレた名前は! 私なんか出酢夜だよ。名前に“酢”が入ってんだよ。当て字にも程があるだろ!
でもゴリラになるよりマシだし、特に名乗る機会もないから渋々受け入れてきたのに、まさかの裏切りッ! 絶許ッッ!
ーーと思ったけど、もしかしたら、まともんが接触した事で兄の設定が変化した可能性もある。
リアルゴリラだった兄が、まともんの指摘後、言われてみれば着ぐるみだと分かるまでになった。
毛並みも口の中も、前見た時とは違っている。まともんが絡む事でモブゴリラから着ぐるみを着た残念イケメンになり、無理やりにでもBL展開にさせたいのかもしれない。
私自身、まともんといるだけで生徒会のデビルと会話イベントが発生したり、保健室が利用出来るようになった。つまり、モブ顔から美少女へチェンジした可能性がある!
「鏡ッ! 鏡はどこ!?」
閃いた瞬間、洗面所に駆け出していた。兄がゴリラからワイルドイケメンに変化したのだから、私は猫目のクールガール希望! 別にチヤホヤされなくていい。クソイケメン共を無視して普通に生活したいだけなんだ。
しかし現実は無情。鏡には鉛筆で点を付けたようなアッサリした顔を映し出し、役割は未だにモブだと突きつけられていた。
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