さん

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 打ちひしがれる私の側で焼き上がったクッキーを並べるまともん。 「お兄さんも良かったらどうぞ」  いつの間にかゴリラから脱皮して小洒落た服を着た兄が『クッキーか。普段は極力口にしないが、お前の手作りなら喜んで頂こう』とギラギラした目でまともんにアピール。 だがまともんは盛り付けた皿を雑に置いて兄をスルーし、『味はどう?』と私の感想を促した。 「サクサクしてて歯ごたえはいい感じ。後はチョコチップとか味のアクセントが欲しいかな」 「わかった。今度はトッピングも用意するよ」  感想を貰えて満足そうに微笑むまともんは(まご)うことなき美少年。イケメンが増産された世界でも、別格のオーラを放っている。 そして『じゃあ、また明日!』と爽やかな笑顔を振りまき、今回も後片付けをしないまま帰ってしまった。憤怒!  まともんが消えると兄も何処かに行ってしまい、気が付いたらゴリラだった。もちろん会話もゼロ。どうやらBL対象が不在になるとただのモブゴリラに戻るらしい。  やはりまともんがキーパーソンなのだ。彼を介して他者キャラと会話が発生する。まともんが不在でも彼の情報を得る為に、デビルと会話イベントが発生したように。 つまり、積極的にまともんと過ごす事で色々なイベントに参加出来るというわけだ。……それなら何が何でも彼と“親密”になるしかない。    翌朝、野良イケメンに絡まれるまともんに駆け寄り『ちょっとご相談があります』とさっそく実行に移した。 「まともんさぁ、毎日変な奴に絡まれるの嫌じゃない? ちょっと人除けみたいな画期的な提案があるんだけど、聞く?」 挨拶もそこそこに通販ショップのような口調で提案する私。ハイテンションでベラベラ喋る様子を胡散臭そうに見つめ、『自分で何とかするから』と一蹴。すぐに飛びつかないところがまともんらしい。 「まともんはフリーだと思われてるから、ムダに告白されたり迫られたりしちゃうんだよ。でも“恋人がいる”って宣言したら状況が変わるんじゃないかな?」 「…………で、偽彼女として藻部が俺の恋人のフリでもするのか?」  OH……鋭い! 若干うんざりした顔なのが気になるが、話が早くて助かる。 「うん! あ、もちろん実際には今と変わらない関係だけど、周りにはそう思わせるだけで効果てきめんだと思う! 私は他のイケメンをちやほやしなくて済むしお互いWIN-WINでーー」 「断る。以前似たような事をやって痛い目に遭ったから」  輝きを放つ美少年の瞳が、死んだ魚のごとく暗く陰ってしまった。
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