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それっきり口を閉ざしたまともん。
何やら闇が深そうだなと感じつつも、モブ活動を卒業する為には、まともんともっと親密にならなくちゃいけない。
しばらくそっとして、彼から次に作りたいお菓子の話を振ってきたタイミングでもう一度交渉してみた。
「私とまともんは単なる“友達”?」
何やら察知した彼が訝しげな目で『ただの“友達”だよ』と強調する。
「そっかー。じゃあさ、“ただの友達”の関係で人んちのキッチンを好き勝手に使ったり入り浸るのは、おかしくない?」
「……別に普通だろ。友達とお菓子作りするの、よくある話だしな」
「それはどうかな? 女の子同士ならあるけど、彼氏でもない男の子が女の子の家に出入りするのって一般的じゃないよ?」
「少数かもしれないけど、変ではないよ」
「まともんの中ではそうかもね。でも私は嫌かな。彼氏でもない奴が我が物顔で自宅にいるの、結構気を遣うし」
まともんの反論が止まった。表情に僅かな焦りが見える。
「“友達”だし、学校で喋る分なら今のままでいいよ。まともんが作った料理を全部食べて感想言うかは気分次第かな。ま、私からは以上です」
わざと素っ気ない態度でスマホを弄る。クールな人間は、他人にされる事には慣れてなくて意外とダメージを受けるらしい。
少し時間を置いた後、彼から『“恋人”のフリをした場合はどうなるの?』と尋ねてきた。
「そりゃ、待遇は全然変わるよ。彼氏の手料理はちゃんと食べて感想を言うし、一緒に料理を作ったりレシピを探したりするかな。あとはーー調理器具を充実させたり、お料理の体験レッスンにも参加しちゃうかもね。あくまで“恋人”のフリだから映画デートとかプレゼントは要求しないし、イチャイチャもしない。メール・電話等、強要しない。お互いの趣味や行動を制限しない、そんなクリーンな関係を約束します!」
立候補者の公約のように語る私を、輝きを取り戻した目で見つめるまともん。
『今後は料理動画も視野に入れてるから、料理アシスタントと編集も手伝うと約束してくれるなら』と、更にめんどくさい事を要求し、ニセ恋人契約が成立。
晴れて彼氏持ち()になった私だが、まともんが『誓約書に拇印してね』と書面を作成し出したので、初っ端から“こんな彼氏は嫌だ”と軽く引いた。
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