よん

1/2

121人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

よん

 なにわともあれ、単なるモブからイケメン彼氏持ちのモブにランクアップしたので、さっそく周知させようと家にいた偽ゴリラ兄に報告。 「兄さん、私真友くんと付き合う事になりました」 「……あ……? 嘘だろ? 俺の真友がお前と付き合うなんてあり得ねぇよ!」  突然兄が叫び、ゴリラの頭部を脱ぎ捨てて自分の面の良さを私にアピール。顔面偏差値では俺の方が上だと言わんばかりの態度に、ほんのり殺意を(いだ)く。 「……兄さん、真友くんとは昨日が初対面でしょ。真友くんのフルネームも知らないくせに“俺の真友”なんて軽々しく呼ばないでよ。私の彼氏なんだから!」  再度、彼氏アピールをしまくる私。“彼氏持ちになったから、二度とよそのイケメンをもてはやさないぞ“という気持ちを全面に押し出す。しかしそんな妹の確固たる意思などスルーして『真友のフルネームを教えろよ』と兄が凄んだ。 「兄さんが知ってどうすんの。まさか私の彼氏にちょっかいを出すつもり?」  あ、なんか彼女っぽい台詞かも。 修羅場に無縁なせいか何だかワクワクしちゃう! 「ああ? つべこべ言わずにさっさと答えろよ」  ドンッと壁に張り手をかます偽ゴリラ兄。漫画でよくある壁ドンとは質の違う、暴力的なドンにテンションがだだ下がり、『真友・ユートピア・ロドリゲスです』と嘘を混ぜ込み彼の名を吐いた。 「真友・ユートピア・ロドリゲス……か。いかにもあいつに相応しい名だな」  張り手した状態のままニヒルに笑う愚兄。発光大名と同じ部類のタイプなのか、いちいち台詞回しがオーバーでキメ顔がうっとうしい。 真友くんの本名は悠人(ゆうと)で、テキトーにでっち上げた“ユートピア・ロドリゲス”をなぜ彼に相応しいと感じたのかは謎だが、偽名を信じた愚兄は、何やらブツブツ呟きながら自室へと消えた。“ロド”と聞こえたような気もするが、それで呼びかけられても彼にはさっぱり意味不明なのだ。愚兄よ、無視されて泣け。  彼氏持ちになった事で家族との素敵な会話が増えるわけでもなく、そのまま一日が終わった。両親との会話イベントは特に発生しないらしい。 まぁ、本来の目的はモブ役免除なので、明日から叫ばなくても良くなる事を期待したい。  だがその期待も翌日にはあっさり裏切られ、たった一日で別れを切り出すはめになり、しかしそう簡単に別れさせてくれず、ガチの修羅場になるなんて、この時の私は予想だにしなかった。  
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加