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よん
なにわともあれ、単なるモブからイケメン彼氏持ちのモブにランクアップしたので、さっそく周知させようと家にいた偽ゴリラ兄に報告。
「兄さん、私真友くんと付き合う事になりました」
「……あ……? 嘘だろ? 俺の真友がお前と付き合うなんてあり得ねぇよ!」
突然兄が叫び、ゴリラの頭部を脱ぎ捨てて自分の面の良さを私にアピール。顔面偏差値では俺の方が上だと言わんばかりの態度に、ほんのり殺意を抱く。
「……兄さん、真友くんとは昨日が初対面でしょ。真友くんのフルネームも知らないくせに“俺の真友”なんて軽々しく呼ばないでよ。私の彼氏なんだから!」
再度、彼氏アピールをしまくる私。“彼氏持ちになったから、二度とよそのイケメンをもてはやさないぞ“という気持ちを全面に押し出す。しかしそんな妹の確固たる意思などスルーして『真友のフルネームを教えろよ』と兄が凄んだ。
「兄さんが知ってどうすんの。まさか私の彼氏にちょっかいを出すつもり?」
あ、なんか彼女っぽい台詞かも。
修羅場に無縁なせいか何だかワクワクしちゃう!
「ああ? つべこべ言わずにさっさと答えろよ」
ドンッと壁に張り手をかます偽ゴリラ兄。漫画でよくある壁ドンとは質の違う、暴力的なドンにテンションがだだ下がり、『真友・ユートピア・ロドリゲスです』と嘘を混ぜ込み彼の名を吐いた。
「真友・ユートピア・ロドリゲス……か。いかにもあいつに相応しい名だな」
張り手した状態のままニヒルに笑う愚兄。発光大名と同じ部類のタイプなのか、いちいち台詞回しがオーバーでキメ顔がうっとうしい。
真友くんの本名は悠人で、テキトーにでっち上げた“ユートピア・ロドリゲス”をなぜ彼に相応しいと感じたのかは謎だが、偽名を信じた愚兄は、何やらブツブツ呟きながら自室へと消えた。“ロド”と聞こえたような気もするが、それで呼びかけられても彼にはさっぱり意味不明なのだ。愚兄よ、無視されて泣け。
彼氏持ちになった事で家族との素敵な会話が増えるわけでもなく、そのまま一日が終わった。両親との会話イベントは特に発生しないらしい。
まぁ、本来の目的はモブ役免除なので、明日から叫ばなくても良くなる事を期待したい。
だがその期待も翌日にはあっさり裏切られ、たった一日で別れを切り出すはめになり、しかしそう簡単に別れさせてくれず、ガチの修羅場になるなんて、この時の私は予想だにしなかった。
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