空手指導員の日常

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中川先生いわく「デワはスリランカのホテル王の御曹司だぞ。大切に扱え」とのこと。 勘の良い方は・・いや良くなくてもお気づきと思いますが、この男こそが後に私を空手バックパッカーにするきっかけとなった張本人です。 大切に扱えと言われても扱い方がわからないので、私はまあ普通に接していました。 しかしこのデワ君、若いのに体がひどく固くてストレッチで開脚などがほとんどできません。 一度、開脚させて背中を軽く押しただけで「トミーせんぱ~い!痛いです。痛いで~す。あああ」と涙を流して号泣されてしまい、困ったほどです。 それでもデワ君はわりと真面目に道場に通い続けました。 体は固いままで、たいして上達はしませんが日本での良い思い出にはなったかもしれません。 指導員になって一年ほど経過したころには、生徒の数も総勢40名近くになり、それなりに賑やかに楽しく稽古していました。デワ君はじめ外国人道場生たちも日本人道場生たちと仲良く和気藹々とした良い雰囲気です。もともとヌルいノリの道場なので、私もすっかり空手指導員という仕事をエンジョイできるほどになりました。 やがてデワ君は日本での学業を終え、スリランカに帰国することになりました。 「トミーせんぱ~い。いろいろとお世話になりましたあ~」     
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