空手指導員デビュー

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空手指導員デビュー

「それで冨井クンはそのお話、引き受けちゃったわけね」 小さな喫茶店。2人がけのテーブルをはさんで私の向いに座っていた真理子は、私の話を聞き終えるとそう言いました。真理子は私が当時交際していた、いわゆる彼女だった女性です。 真理子は私の勤め先の得意先の社員でした。小柄で華奢で色白で、けっして美人というわけではありませんがかわいらしい顔立ちだったのに一目惚れして、なんとか口説き落とし交際するようになりました。 しかし付き合ってみるとその外見に似合わず気の強い性格で、私はかなり尻に敷かれていたと思います。 「いや、引き受けたというか、ちょっと断れない相手だったもので」 「ふーん、それでその空手のインストラクターってお給料はどのくらい貰えるの?」 「空手の指導員というのは基本ボランティアなんだよね。まあそのかわり会費とかはタダで空手の稽古ができるから、まあお得かなあって」 真理子の眉間に縦に皺が寄るのが見えました。 目の前に置かれたコーヒーには口を付けずに話を続けます。 「すると冨井クンはこれから日曜祝日のたびに、夕方からそのタダ働きをするってことね?」 抑揚の無い冷たい口調なんだか怖い・・・。     
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