ドドド

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 こんな夜はいけねぇよ。とどろき様がさ迷い歩く。くわばら、くわばら。なんてな。  男は背中にひんやりとした風を感じて、ぶるっと震え上がった。綿入りの着物の袖を擦ると、継ぎ接ぎだらけでぼこぼことしている。薄くなった髪で結い上げた髷は、隙間風に揺れるほど軽かった。  町じゃあ、髷を結うのをやめたとよ。  木杓子を手に、鍋をかき混ぜる。話す相手は立ち上がる湯気しかいない。山の一軒家で男は薪を作っては下山し、町で売りさばいて生計を立てていた。
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