地の一巻

2/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
趣味は、お城巡り。 今日も、一人中部地方にある古いお城を訪ねている。 お城の魅力はたくさんあって、ぜひそれについて語りたいのだけど、僕がお城について語り始めると、なぜかいつも聞いてる人の表情が消える。 理由はわからない。 世の中の人はきっとお城が嫌いなんだろう。 一通り城郭を巡り、仕上げに天守閣に登り、写真を取ろうと、天守を囲む回廊から手を伸ばした瞬間、スマホが手から滑り落ちた。 慌てて手を伸ばし、バランスを崩し、それほど高くない回廊の手すりを乗り越えて、真下の瓦屋根を滑り、雨樋に引っかかってたスマホを素晴らしいタイミングで掴んだ瞬間 宙を飛んだ。 ああ、死ぬんだ。思えば何も無い人生だった。せめて、せめて痛くないといいな。 気付いたら、僕は地面に片膝立てのちょっとかっこいいポーズで座っていた。それも若干俯き気味。 周りはいつの間にかすっかり暗くなっていて、天守前の広場には篝火が並べられ、その火に僕を取り囲むように立ち並ぶ忍者装束の人たちが浮かび上がっている。顔を上げると、正面に白髪と髭を伸ばした老人が杖に顎を乗せる様にして、一人だけ折り畳み椅子みたいなものに座っている。 「何奴だ!」  誰かが聞いたので 「あ、甲賀と言います」  と自己紹介をする。 「甲賀者だと」 「何故甲賀者が」 「甲賀者だ」 周りの人たちが口々に叫び、敵意満々で身構える。 初対面の人たちにいきなり嫌われるのは、まあ確かに僕の得意技ではあるのだけど、なんかここまでってさすがにあまり記憶に無い。 「待って、待って、コウガタスク。僕の名前だよ。甲賀者って人を忍者みたいに・・って、忍者?」 「まあ、落ちつけ」 老人がしわがれてはいるけど、よく通る声で言ってくれる。 「そうそう、落ちついて落ちついて」 「お主は黙ってろ」 怒られた。 「あ、はい。ごめんなさい」 「ううむ。現れ方と言い、身に着けた物と言い、とてつもなく怪しいが、しかし、どこからどう見てもこの上無く間抜けそうで、危険では無さそうじゃな。ミル、こやつを牢にぶち込んでおけ」  老人が僕の背後に目を向けながら声を掛ける。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!