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地の二巻
連れて行かれた先は、山城の麓近く、三の丸に当たるエリアのようだった。
「入れ」
立ち並ぶ木造平屋の建物の奥に、牢屋があって、僕はミルさんに言われるままに、その中に入る。
ミルさんは、外から鍵をかけ、すぐに立ち去ろうとする。
「待ってください」
「何だ?」
「ちょっとお話しませんか」
「何故貴様と話など」
「あ、いや、違う違う。教えて欲しいことがあるんです」
「教えられることなら答えてやるが」
「ミルさんって、どんな字書くんですか?」
「はあ? 貴様、愚弄する気か」
「あ、いや、違うこれも違う。ここはどういう世界で、あなたたちはどういう人たちなんですか?」
「なんだ、貴様は記憶を失っているのか。まあいい。今は、戦乱が収まってから十年ほど、丙戸に幕府が開かれ、徳山様の世の中だ。我々は、この檜村の地を収める川端の殿に仕える忍びだ」
「なるほど。僕がいた世界の歴史とよく似た世界なんですね」
「もういいか。私はもう行くぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
歩き出しかけて、ミルさんは一旦立ち止まり、少し躊躇ってから、言った。
「水が流れる、と書いて、水流だ」
そう言い残すと、水流さんは少し小走りで立ち去った。
か、可愛い。
惚れた。
と言うか
こんなに長く女の子と話したのは久しぶりだ。
この世界はなんか悪くないかも、なんて思いながら、板敷きの床に一枚だけ敷かれた畳に横になって、取り敢えず眠った。
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