地の二巻

1/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

地の二巻

連れて行かれた先は、山城の麓近く、三の丸に当たるエリアのようだった。 「入れ」  立ち並ぶ木造平屋の建物の奥に、牢屋があって、僕はミルさんに言われるままに、その中に入る。  ミルさんは、外から鍵をかけ、すぐに立ち去ろうとする。 「待ってください」 「何だ?」 「ちょっとお話しませんか」 「何故貴様と話など」 「あ、いや、違う違う。教えて欲しいことがあるんです」 「教えられることなら答えてやるが」 「ミルさんって、どんな字書くんですか?」 「はあ? 貴様、愚弄する気か」 「あ、いや、違うこれも違う。ここはどういう世界で、あなたたちはどういう人たちなんですか?」 「なんだ、貴様は記憶を失っているのか。まあいい。今は、戦乱が収まってから十年ほど、丙戸に幕府が開かれ、徳山様の世の中だ。我々は、この檜村の地を収める川端の殿に仕える忍びだ」 「なるほど。僕がいた世界の歴史とよく似た世界なんですね」 「もういいか。私はもう行くぞ」 「あ、はい。ありがとうございます」  歩き出しかけて、ミルさんは一旦立ち止まり、少し躊躇ってから、言った。 「水が流れる、と書いて、水流だ」  そう言い残すと、水流さんは少し小走りで立ち去った。 か、可愛い。  惚れた。  と言うか  こんなに長く女の子と話したのは久しぶりだ。  この世界はなんか悪くないかも、なんて思いながら、板敷きの床に一枚だけ敷かれた畳に横になって、取り敢えず眠った。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!