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地の五巻
左手に浮かんだスマホの待ち受け画面が、輝きを放っている。
起動した?
僕は、右手の指で画面を操作してみるが、感触はただの手の平で、何の反応も無い。
「その術は、何だ? 自分ではわからないのか?」
水流さんも身を乗り出して僕の左手を覗きこんでいる。
かわいらしいつむじが、すぐ目の下にある。
ほのかにシャンプーの香り、はさすがにしないか。
「どうやら、情報検索の力なような気がします。どういう仕組みなのかは、僕にもさっぱりわかりませんよ」
「ううむ。考えるだけで何かの情報が頭に浮かぶのか」
「ちょっとやってみましょうか。檜村藩の事でも見てみます」
僕は、手の平を合わせて、頭の中で語句検索するイメージを浮かべた。
「ええと、檜村藩は、藩主川端昭栄。川端様は、幕府の開祖徳山軒安の甥にあたり、二十一万石を拝領、徳山御三家のひとつ。公称は二十一万石ながら、あれ、ええと、隠し田の分を合わせると実質三十万石もあるじゃないですか、殿様もなかなかやりますね」
「ちょ、お前、馬鹿、何を言ってるんだ。て言うか、止めろ、ちょっと止めろ」
水流さんは、うろたえまくって、慌てて僕の口を塞ぐ。
あ、なんかいい。
こういうの、すごくいい。
いじわるしてもっと続けたら、水流さんは、「馬鹿ぁ」なんて言いながら、両手でぽかぽか叩いたりしてくれる流れなんじゃないかと思ったが、水流さんの表情を見て、このまま続けたら、確実に、相当なダメージを受ける勢いでぽかぽかされそうなので止めておいた。
「なぜ隠し田のことまでわかった」
水流さんが冗談を許してはくれないような顔で聞く。
「ええと、なんか、帳簿みたいのが思い浮かんだんですよね」
「馬鹿な。あれはごく一部の者だけしか知らない物のはずだ」
「そんなこと言ったって、思い浮かんだもんは仕方ないですよ」
そう言いながら、僕は水流さんの事も検索してみる。
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