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『あ、ご主人さま、ここですか?』
ヒメコが駆けていく。
目の前には綺麗に並べられたお墓が日に照らされている。
わたしは名前を確認して、荷物を下ろした。
「来たよ。マリ、父さん」
墓前で、イノリとヒメコが頭を下げる。
…この娘たち連れて来るのは初めてだったな。
『お初にお目にかかります。私、メイ様の魂に寄り添う愛玩人形、ヒメコです』
『あたしはイノリよ。よろしくね、伯母さん、おじいちゃん』
…結婚より先に娘を紹介することになるとはね。
父さんもマリもびっくりしてるだろうなー…。
でも、こうして紹介出来て良かった。
ヒメコとの縁は、父さんが繋いでくれたんだもの。
わたしは墓前で両手を合わせた。
ヒメコとイノリも一緒に手を合わせる。
「…父さん、マリ。これからも見守っててね」
そう呟くのと同時に、足音が近付いてくるのが解った。
顔を上げると、父娘連れが目に入った。
優しげな雰囲気の初老のお父さんで片手に花束を、もう一方の手で娘さんと手を繋いでいる。
娘さんの方は、ヒメコ達より小さくて、お人形さんみたいに整った顔立ちをしていた。
「…こんにちは」
お父さんがわたしに頭を下げる。
「お墓参りですか?」
「え、ええ。父のお墓参りです」
わたしが答えると、お父さんは目を細めて微笑んだ。
「そうですか。暑いので気を付けて」
「ありがとうございます」
二人は会釈すると、再び歩き出した。
去り際に、娘さんが振り向いて手を振ってくれた。
『お知り合いですか?』
「ううん。知らない人」
…少なくとも、今はね。
『なんか、あの子ヒメコに似てたわね。顔というか、雰囲気が』
『えー…そうですかぁ?』
納得いかないのか、頻りに首を捻るヒメコ。その様子を見て、イノリが楽しそうに笑う。
「さ、帰ろうか。母さんがお酒冷やしてまってるからさ」
『飲みすぎちゃダメですよ?お母様の前なんですから、私がちゃんと付き添いますね』
『ママ、おつまみ一緒に食べていい?ジュースでなら付き合うわよ』
上手いこと言いながら、我が家のお人形さんたちはわたしの手を掴む。
わたしはその手を握り返して、歩き出した。
両手に伝わる重み。
そして、温かい掌の感触に気付いて、わたしは一人笑ったのだった。
おわり
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