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もしそうだとしても、それを責める気はない。
その事があったから、悪いと思い、家のことをしてきてくれたのだろう。
図々しい人なら家の中で寝起きするところを律儀にも物置でくらしていたのだろう。
そんな人はめったにいないだろう。食べ物も遠慮して、あまり食べないし。
一度食べるとしばらく持つようなことを言っていたが……
何がすきなのかしら。
ぼくは考えながらスーパーの通路を歩いた。無意識的にそば二人前をカゴにいれ、つゆの素、さらに総菜売り場で、半額の赤札のついたかき揚げを二つ買った。
引っ越しといえば そば だろう。
末永くお付き合いをするために、向かい合って長いそばをすする、ぼくはそんな言葉に一人赤面する。
それから、卵と食パンを買おう。
台所にトースターがあるのは目撃している。
卵を買った時に再び城田さんのことが頭をよぎらなかったといえばウソになるだろう。
魅惑のオムライスのことを。
そして、ああ、ケチャップを二股の舌で舐める城田さんを思い浮かべ、なぜか、ぞわぞわしたのである。
スーパーの袋を下げてとぼとぼ家に戻ると 城田さんがいそいそと出てくる。
「まあ、やっぱりユウちゃんね。おそばかと思って鍋にお湯をわかしてあるの。だってお引越しだもの。さあさ、わたしが運ぶわ」
と袋を受け取り。鼻歌を歌いながら、台所に向かう。
鼻歌は、「トイレの神様」だった。
これはなにかの暗喩なのだろうか? しかし意味するものが思いつかないまま、次は「ホテル・リバーサイド」の鼻歌にうろたえる。
何度も言うが、ぼくは腹が弱い。
激動の一日の精神的疲労から、トイレに入り、例のよっておなじみの便器に座り考え事をしていると、
「ユウちゃん」と声がかかった。
「気を利かせてもってきてくれたのね、トイレロール買って来てくれてありがとう。ホルダーにはめておいたから」
と言っている。
ぼくの引っ越し荷物から、あとでトイレにおこうと廊下においていたのを、わかってくれたのだろう。ありがたい。今日は葉っぱでお尻が痛くなることはない。
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