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その家は、すぐわかった。
樹木におおわれてこんもりとして、まるで「ここですよ」と言っているようだったし、司法書士の神崎さんが見せてくれた写真のとおりだったから。
隣地は畑になっている。S市には農業をしている人が意外に多かった。このところの自然食品ブームで、S市独自の地場農産物が地元のスーパーでも人気なのだろう。
「と、いうことはやっぱり虫とかいるかな?」
ぼくの足の運びが途端に遅くなる。
足がないやつも、足が多量にあるやつも、足が正しく6本の昆虫も、いるだろう。
とにかく、虫と名前がつくだけで、虫唾がはしる。
例えば「本の虫」と言うたとえ言葉がある。つい、古本などに発生している、体長1ミリにもならない、例の虫(紙魚というらしい)を想像し、ぞわぞわしてしまうくらいだ。
「腹の虫」や「疳の虫」と言う言葉でさえ体調が増悪する。
それはトラウマに由来する……思えば、
と、記憶を巡らせているその時、まるで先手をかけるようにぼくをめがけて、蜂が飛んできた。
「うわっやめろ、やめてくれ」ぼくは、腕を振り回す。
話によると、蜂というのは黒い洋服に敵対心を持つそうだ。
そのときぼくは黒いポロシャツにジーンズといういでたちであったのだ。
「お願いです……あっちへいって」
逃げると、かえって追いかけてくるというので、ぼくはじっとしていた。しかしそれも俗説でしかないのだろう。
蜂は、小降りのサイズの、たぶんミツバチだと思うのだが、何を思ったか腕に止まり、あろうことかちくりと刺したのだ! 激痛と心理的な恐怖がぼくを襲った。
「ああああっつ、うええええ、いたいいたいいたい」
ぼくは半狂乱になった。そして頭の中は、
「しっこをかけるべきか?」という自分への問いかけでいっぱいであった。
蜂にさされたら、アンモニアが効果がある、といわれていたのは、昔の俗説で、今は
「まずきれいな水で洗う」というのが正解である。
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