第4問

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第4問

 ぼくは心の余熱を冷ますためにレンタカーを返しにいった。そのレンタカーは同列系の会社なら返却はどこでもOKだったので助かった。  こういう面では難なく出来ることもある。  それなのに、あたふたして失敗が多い日常の原因を探るべく、考えを巡らせながらレンタカーの店を出る。  少し歩いたところで腹がぐぐぐ、と鳴った。  帰りにスーパーによって、食料を買うことにした。  スーパーは私鉄の駅前にある。夕方も遅い時間で、客はまばらだった。  サラリーマンや主婦がカゴをもって足早に買い物している。閉店時間は午後十時。客層や、惣菜類の多いこと、リーズナブルな値段にほっとする。  多分これから毎日来ることになるだろう。  店内は空調が効いていて、汗をかいた後だったので、少し悪寒を感じた。  いや、それは精神的緊張から来るものだったのかもしれない。あの、緊迫感だ。城田さんの、ひとりの人間の人生の危機的状況に直面したわけだから。  そして、家に帰ったら当然に、ホームレスでお金のない城田さんがいるのだ。  「ぼくは、あの時に安易な約束をしたが、本当に城田さんの支援ができるのだろうか」  そう心で呟いている。 「しかし憲法第二十五条では」とぼくは、そばに人がいないのをみはからい、声に出した。   【すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する】  と、謳っている。  僕の一番好きな条文だ。  だから、ぼくは城田さんにも、  健康で、文化的に、そう、最低限度というのではく、もう少し余裕のある、生活を、城田さんの望む暮らしを、なんとか実現できるようにサポートしたい。  そう感じさせるものが城田さんには、違う、ぼくが個人的に城田さんにそうしてほしいのだろう。  城田さんのあの笑顔……ぼくは、ぶるぶると頭をふり邪念を遠ざけた。  ところで 彼女、文無しといっていたが、何かこれから収入の道を考えているのだろうか。  家に帰りまずそれを聞こう。ここで疑問が出てきた。あの物置で、まさか、あの物置が? 物置をねぐらにしていたのではあるまいか?  おばさんが亡くなってから、ぼくが引っ越してくるまで。約半年のあいだ。
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