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「おれはりょうちゃんのこと、あきらめてないよ」
ぞくっとした。
血走った瞳が俺を狙って暗く光る。気がつけば冬馬の両手が俺を壁にぬいつけていた。逃げ場がなくなった。雨の勢いが弱まったのは、あいつが俺を囲っているせいだ。
「……りょうちゃんが好きな子ができるたび、その子を潰す。やめないよ。ずっとね」
「冬馬……」
「でもりょうちゃんは、それでいいの? 自分のせいで、何の罪もない子が傷つくことになっちゃっても?」
「俺に、どうしろって言うんだよ……」
その言葉を待っていたみたいに、冬馬が綺麗な唇をゆがめて笑った。
「おれとつきあってよ。りょうちゃん。誰にも内緒でいいからさ。おれの気が済むまで、おれのものになってよ? そうしたらもう、誰も泣かさないよ?」
「……」
黙って、冬馬を見上げながら、俺はこんな時なのにぼんやりと考えていた。
こいつは誰なんだろう、と。
本当に俺の知っている冬馬なのか?
自分が悪くなくてもペコペコ謝っていて、いつも俺の半歩後ろをオドオドしながらついてきた奴なのか。
もしかしたら冬馬は、ずっとそんな自分が嫌いだったのかな。
ふとそんなことを思った。
気弱で、自分に自信がないから俺にふられたと思ったのかな。だから自分をめちゃくちゃにこわそうとしているのか。
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