第3章

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午後から降り出した雨が、渡り廊下の屋根にあたって耳触りな音を立てる。それに負けないように、腹から怒鳴ってやった。 「何でお前、そんな風になっちまったんだよ? 何がしてぇんだよ!」 「……それ、りょうちゃんが言う?」 ほぼほぼ3ヶ月ぶりに聞いた「りょうちゃん」に、俺が虚をつかれてる間に、ものすごい力で腕を引っ張られた。そしてたまたま近くにあった体育倉庫の陰に引きずり込まれる。渡り廊下からは見えない、倉庫の壁にたたきつけられた。雨にぐっしょり濡れた紫陽花がズボンにまとわりついてくる。 屋根なんてないから、冷たい雨がもろに顔や髪にかかる。 「おい! 何すんだよ! いてーよ!」 強めに冬馬の肩を押し返した。いくら別人みたいになっても、冬馬は冬馬だ。にらんでやれば少しは怯むかと思ったのにあいつは笑っていた。笑っているのに、瞳は怒りに満ちていた。 「ずっと待ってたのに、おせぇよ、りょうちゃん」 冬馬の長い前髪を雨がつたっていく。きっちり整えた眉や、決して逸らさない強い瞳が、やっぱり別人みたいだった。 「遅いって、どういう意味」 俺が言いかけた瞬間、あいつの長い足が俺の横の壁を蹴った。それで言葉を中断させられた。 「あーもう、ほんっとに鈍感だな、りょうちゃんは」  両肩をすくめて、大げさなくらいため息をつくと、俺を見て冷たく笑った。 「まだ気づかないわけ? おれがりょうちゃんのお気に入りばかり狙ってるってこと」 「へ?」 「最初の一人もそうだよ。りょうちゃんの好きな声優さんに似てたから声をかけたんだし、二人目はブスだったけど、声がそっくりだったよね? そんで三人目は、りょうちゃんのクラスの女子から情報もらったからだよ。本間くんは絶対に花井さんのこと好きだって。だから声かけてふってやったんだよ。あの子たちがふられたのは、だからみんなりょうちゃんのせいだよ? ここまでやったらふつー気づくでしょ? まぁそういう鈍感なところもかわいいんだけどね、りょうちゃんは」 聞いているうちに心臓がドクドクしてきて、気持ちが悪くなってきた。雨音と心臓の音がけんかしているみたいに、俺の耳元で鳴っていた。
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