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第2章
「あー。やってらんねーな」
放課後。窓枠に両肘をつけて、袴田が、呻くように言った。
すでに5月に入り、ゴールデンウィークも特に平凡に終わってしまった。
「おい見ろよー。涼太。リア充がいるぞー。俺も女の子と一緒にかえりてーなー。くそう。石、ぶつけてー」
「やめろよ、みっともない」
当番日誌を書く手はとめずにいさめた。待っててくれるのはありがたいけど、こいつは愚痴が多すぎる。
「げー! あの子って、うちのクラスの花井彩香じゃん! 隣、誰だよー?」
花井彩香、と聞いて、よどみなく動いていた俺の手が止まった。かわいいのに気取りがなくって、俺たちみたいな地味目男子にもノリよく接してくれる、……俺が、密かにいいなーと思っていた子だった。
日誌を放り出し、あわてて窓から身を乗りだし目をこらす。細身のモデルみたいな体型の男と、ゆるふわカールの可愛らしい女の子が、ちょうど校門の向こうに消えるところだった。
……ま。まさか。
嫌な予感がして、体中に悪寒がはしった。
「げー! あいつD組の本条冬馬じゃねーか! マジかよー! そりゃお似合いだわー!」
大げさに叫んで、袴田が椅子にへたりこんだ。上目遣いで、俺を睨んでくる。
「本条って、お前と同中なんだろ? 話したことあんのか?」
「ねーよ。……いまのアイツとは」
嘘は言ってない。実際問題、俺の知ってる冬馬は消えちまったから。
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