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「ここは異世界人がよく来るの? カールさんは私が初めてだと言ってたけど」
千勢の横でカールが頷く。
ニーロはため息交じりに答えた。
「ここ数年で数が急激に増えてるんだ。世界間を移動する手段を見つけて試してみたり、業者の口車に乗せられてやって来たり」
「業者の口車って……」
千勢の脳裏に嫌な言葉が浮かび、眉をひそめる。
ニーロは彼女が言いたいことがわかったかのように、苦い顔で頷いた。
「そう、人身売買だ」
ここにもあるのか、と千勢は暗い気持ちになった。
「そういう連中が大勢来るせいで、未知の動物だの虫だの菌だのが入り込んで来てな……あちこちで対応に追われてるんだ。だから許可のない異世界人には即刻お帰りになってもらってるのさ」
千勢の住む日本でも外来種による被害のことは新聞などで目にすることがある。
「ま、あんたへの疑いは晴れた」
そう言ってニーロは繋いでいた手錠を外した。と、その直後、何かに気づいたように彼は短く断りを入れ、もともとつけていたらしいイヤホンに意識を傾け千勢達に背を向けて通話を始めた。
電波通信があるのかと千勢は驚いた。
というのも、カールの家には電気やガス、水道がないからだ。まるで江戸時代のような暮らしをしている。
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