君の隣

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「こっちだよ!」  子犬のような笑顔を向けて私を呼ぶ。甘いカフェオレみたいに優しい声だ。 「ちょっと待ってよ!」  追いつけなくて少し不機嫌にむくれて私は駆け寄る。怒ってるのに、君はとっても嬉しそうに笑うんだ。  小さな手を取った。きゅっと握りしめた温もりを未だに忘れない。  子供の頃の記憶が蘇った。ほんの一瞬、私は5歳の自分を見ていたらしい。はっとして、隣に立つ父親を見上げると赤く腫らした目を優しく細めていた。  目の前の大きな扉が開いて、音楽が響く。  一歩、一歩、ゆっくりと進んだ先に君はいる。  ゆっくりと、私の手が父親から君へ渡された。  今までも、これからも、君の隣は私で、私の隣は君しかいない。
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