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羊飼いの憂鬱
美しい鉱石竜の鱗は、山のようにいる鉱夫たちの命よりも価値があるという。
そんな世の風評を思い描きながら、リアンノン・プレデリは盛大なため息をついた。彼女の緑の眼は不穏な光を放つ。その眼はぴたりと机に置かれた一冊の本に向けられていた。
小さな子供ほどの高さはある大型の本だ。その本の表紙を七色に煌めかせているものがある。
竜の鱗だ。
先日、この聖都アベルフラウの東にある鉱山で生け捕られた鉱石竜の鱗。きっちりと結い上げられた黒髪をそっとなでて、リアンノンは本を飾る鱗に触れる。鱗は一流の職人により研磨され、樫の葉よりも薄い。光沢を放つ表面は滑らかで、手に吸いつくようだ。
この鱗は、生きた鉱石竜からむしり取られたものだ。鱗を無理やりはがされ苦悶する竜の姿が脳裏を掠めて、リアンノンは眼を歪ませていた。
「生き物を痛めつけて、何が生前の善き行いを本に記すよ……」
忌々しく吐き捨てる。
リアンノンの眼の前にある本は、亡くなった司祭の生涯を綴った『回顧録』だ。人は死後、地下にある死者の国で生前の行いを裁かれる。その行いの善し悪しによって何に生まれ変わるのかを死者の王に決めてもらうのだ。
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