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そのときに必要なのが、本人の周囲にいた人々の証言だ。裁きの場で本人の口から嘘でたらめが出たとしても、周囲の証言がそれを虚実と証明してくれる。
そこで必要になるのが、亡くなったものの生涯を第三者の視点から客観的に描いた『回顧録』だ。リアンノンたち羊飼いと呼ばれる人間は、亡くなった者の周辺を調査しその回顧録を作ることが仕事だ。
聖典作りから発展したそれは、今や精霊教会の神聖なる業務にして収入源の一つでもある。
簡単に言ってしまえば、金と権力のある人間は自分の生前の回顧録を如何様にも華美なものにできるのだ。
リアンノンは豪奢な聖者の回顧録から、隣に置かれた質素な本へと視線を移す。
数週間前に亡くなった身寄りのない鉱夫の回顧録だ。
使い古された羊毛紙がそのまま表紙になったそれは、彼がどこの聖堂で生まれて洗礼を受け、どこで働き、どの聖堂に葬られたのか年代に沿って書かれてしかいない。鉱石竜の鱗で飾られた司祭のそれとは、大きく異なる。
同じ人間の生涯を綴った回顧録が、身分の違いでこうも違ってくることにリアンノンは辟易としていた。孤児であり、この職に就しかなかったリアンノンの回顧録は、彼らの中間をいくものになるだろう。
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