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人語を解さない竜が言葉を話しているのも驚きだが、人である鉱夫を父と呼び彼を慕っていることにも驚いた。そのうえ彼は、リアンノンが書いた言葉まで理解しているのだ。
「あなたは、本当に竜なの?」
問に思ったことをリアンノンは口にする。すると竜は、涙にぬれた眼でリアンノンを睨みつけた。
「こいつの名前はパーシヴァルだ。パパにつけてもらったそうだ」
隣にいる聖王が得意げに言葉を発する。思わずリアンノンは、自分の上司にあたるその人物を見つめていた。
長い金髪を三つ編みにした彼は、豪奢な法衣に身を包んでいる。この世を創造した精霊たちを崇める精霊教会の頂点に立つ人物は、楽しげにリアンノンを見つめていた。
「不愉快なんですが……」
その視線にリアンノンは思わず本音を口にしてしまう。彼は困ったように眼を細めて、リアンノンに言葉を返した。
「それが教会の頂点に立つ私に放つ言葉かい? リアンノン」
「あなたに押し付けられた司祭の回顧録づくりに手間取って、他の仕事が溜まってるんです。それに、書き直せと言われても」
自分は、その鉱夫のことをほとんど知らない。彼は友人もなく、怪我で鉱夫を辞めた後は教会の貧窮院で人知れず息を引き取ったという。その貧窮院に残されたわずかな記録を頼りに、リアンノンは回顧録を書くしかなかったのだ。
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