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裁きの場に使われる回顧録は、あくまでその人物を知っている人々の証言をもとに書かれなければならない。それが嘘かどうかは置いておいて、その人物が他者にどう評価されているのかが重要なのだ。
だからこそ回顧録の文章は、人との結びつきがより重要になる上流階級の者たちの方が分量も多く読み物としても圧倒的に面白い。
それに比べ、身寄りのない身分の低い者たちの回顧録は生前の証言が得られないことがほとんどであり、年代別に生涯を書き連ねただけのものが多くなるのだ。
「リアンノンでなければ羊飼いであらず。そういわれる君がそれ言うのか?」
瑠璃の眼に嘲りの笑みを湛えながら聖王は言い放つ。その言葉にリアンノンは唇を噛み締めていた。
リアンノンは孤児だ。気がついたら教会の孤児院にいた。孤児院では精霊に仕える真摯な信徒へと子供たちを育てるべく、読み書きの教育も行われる。その出来が少しばかりよかったリアンノンは、いつの間にか羊飼いになることを周囲の司祭たちに決められていた。
食べるために、リアンノンは先輩の羊飼いたちと共に遺族たちのもとを訪れ、彼らの記録をもとに回顧録を作る日々を送るようになる。
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