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その中でリアンノンが作った回顧録はひときわ評判が良かった。リアンノンの文章は生き生きとしていて、不思議な臨場感がある。彼女の作った回顧録を読んでいると、不思議と読者はその場に亡くなった回顧録の主たちがいるような心持ちになるというのだ。
「そんなこと、言われても困ります……」
けれど、リアンノンはこの仕事が好きではない。自分の回顧録を喜んでくれる遺族たちの姿を見られるのがせめてもの救いだ。けれど、それは豊かな財力を持つ家庭の人々か、人望に熱い上流階級の人々に限られる。
回顧録を作るにはそれなりに資金がいる。その資金がなければ、高価な羊毛紙を節約するために、書かれる文章も簡潔なものにならざるを得ない。
それでも、遺族がいる人は短いながらも生前の善き行いを回顧録に記すことができる。問題なのは、身寄りすらなく死んでいく人々の回顧録だ。
「パパのことは、書いてくれないの?」
寂しげな鳴き声がリアンノンにかけられる。リアンノンは大理石の檻へと顔を向けていた。鉱石竜が弱々しく長い首を垂れてこちらを見つめている。玻璃のように美しい眼は、まだ涙で潤んでいた。
「ごめんなさい。書きたくても、あなたのパパのことを私は知らないの……。本当にごめんなさい」
事情は分からないが、鉱石竜にとって鉱夫が大切な人であることは理解できる。リアンノンはなんだか申し訳なくなって、竜に頭を下げていた。
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