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鉄仮面でシュコーシュコーと息を吐きながら、俺はやけくそ気味に声を出す。
ああそうさ。ハーモニックに来てからはずっとそうだったが、ここでも俺は一部のスキモノな男達に「君をご指名したいのだが」と言い寄られていたさ。
それを止めさせたいから俺の顔を隠したっていうブラックの言い分も解るさ。
でも、鉄仮面はないでしょう。鉄仮面は!!
これマジで視界悪いし鉄くせーんだよ! っつーか俺が物語の主人公だとして、この格好はどうなの。貧弱バディーに鉄仮面ってどう考えても仮装か変態でしょ。
俺内面も外見も変態になるのだけは嫌だぞ。
絶対嫌だぞ!!
「ツカサ君の可愛さは隠しきれないんだから、そうしてゴツい仮面を被るしかないだろう? 鉄仮面が嫌なら『俺はブラックさんの恋人です』って書いた板を首からぶら下げて貰うしかな」
「仮面でいいです」
「なんで嫌がるの」
「だから俺は恋人だって認めてねーっつってんだろ」
ここぞとばかりに一番ツラい選択肢を出さないでくれますかねブラックさん。
俺が腕全体をクロスしてバツを作ると、相手はあからさまに顔を歪めた。
「まだ意地を張ってる……」
「その“俺が悪い”みたいな顔やめてくんない!!」
俺が悪いんじゃなくて、この世界が性におおらかすぎなの!
この世界が男女構わず平等に愛し過ぎるだけで、俺はノーマルだから。お前達がハイパーなだけだから!
鉄臭い中でいきりたつ俺とブラックの間に、トーリスさんが慌てて入る。
「お、お二方とも落ち着いてー! お客様が気になさいますぅう!」
ぐう、確かに……。
今はいがみ合ってる場合じゃない。俺も鉄仮面を我慢しなければ。
俺とブラックはまだ言い足りないながらも、そこは大人の対応でぐっと堪えて、店がカンバンになる時間までドアの近くに立ち続けた。
この程度のことなら、歩き続けるよりも楽だ。
うむ、俺ってば着実に体力が付いてるな。微々たる変化だけど。
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