1.はじまりはいつも穏やかに

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   俺は技師の称号を手に入れるつもりはまだないので、それは考えないでおく。  この世界で資格沢山持ってても、面倒なことになるだけだしな。  とにかく、これで晴れて俺も上級曜術師の仲間入りってワケだ。  しかし専属依頼ってえらく沢山あるんだな。 「ええと……クグルギ様は日の曜術師と言う事ですので、水、木それぞれの依頼とその他、傭兵としての物などもございますが……どういたしましょう?」  あまりに多すぎて、シーミアさんは困っているらしい。  しかし、俺はもう行先を決めていたので、申し出を丁重(ていちょう)にお断りする。  俺が昇級したのは、あくまでもクロウの首輪を取ってやるためだ。  それが無かったら、俺は今でも低級で留まっていただろう。だって、級上げてもロクなことないし。  でも、今回ばかりはそうせざるを得ないのだ。  残念そうなシーミアさんにお礼を言って、俺は試験会場を出る。ギルドのロビーに戻ると、そこにはロクを首に巻いたブラックが座って待っていた。 「ツカサ君、おめでとう!」 「おめでとって……結果を聞いてないのに即祝福かよ」 「僕が教えたんだもん、ツカサ君なら二級なんて軽いと思ってたよ」  にこにこと人懐っこく笑いながら断言するブラックに、なんだか言い返す言葉も無くて俺は頭を掻く。  まあそりゃ、俺にとってはブラックは師匠でもあるし、師匠なら弟子の力なんて見抜けて当然だろうけど。  でも、はっきり言われるとなんか恥ずかしいな。 「じゃあ、これから“うっかり”噂を振り撒きに行こうか」  ブラックの不可解な言葉に、俺は頷く。  何故ブラックがそんなことを言ったのかを、俺は理解していたからだ。  だって、この昇級試験を受けたのも、ブラックと“うっかり”をやらかそうとしているのも、全てある計画の為だからな。  俺はラッタディアに帰還してからの事を思い出しつつ、再度気合を入れ直した。  
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