百渡し

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男は喜兵衛を舐める様に見て小さく何度か頷いた。 「わかった。船頭…。悪いが俺たちも引き返してくれ…。向こう岸に用が無くなった」 男はそう言うと舟板に座った。 喜兵衛は返事をして舟を回した。 「そのお客さんがどうかしたんですかい」 喜兵衛は舟の先を帰しながら男に訊いた。 「ああ、女郎屋の女なんだが、どうやら性質の悪い客に梅の毒を貰ったらしいんだ。女郎屋の女将が明日、医者に連れて行こうとしたところ、逃げ出した」 喜兵衛は手を止めた。 男は苦笑しながら喜兵衛を見た。 「そんな女を野放しにすると梅の毒が世間に広がっちまう…。女郎屋としても、そんな病気の女が出たとなると商売出来なくなっちまうからな…」 舟はゆっくりと舟着場に着いた。 男たちは腰を上げると舟を降りた。 「あんたも女拾ってもやるんじゃないぞ…。梅の毒なんてもらってみろ…俺も見た事は無いが、鼻が取れちまうらしいからな…」 男たちはそう言うと舟着場を離れて土手を上って行った。
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