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放免祝い 1
疫病神は確かに存在する。
右へ行っても左へ行っても不幸にぶち当たるというタイプは、それこそ神のごとき因縁が自分に絡みついているんじゃないかと天を睨むかもしれない。
それとは別に、こいつのそばにいると次々と厄介ごとが降りかかってくる、という人間の形をした疫病神もいる。そのくせ本人に自覚がなくケロッとしているので周囲は振り回されてばかりだ。
簡単に縁が切れれば世話はない。どれだけ物理的に離れてみても、そいつは必ずやってくる。時には生命を左右しかねないほどの大きな厄災を抱えて――。
その日、高村悠平はガラにもなく浮かれていた。
テレビをつけ、大音量で昼のニュースを垂れ流しながら、簡単に部屋の片付けをしていた。バイトは休みをもらい、空は宇宙を感じさせるような紺碧で、季節は夏だ。
しかも齢十二歳になった妹が遠く離れた地元から遊びに来る。二年ぶりの再会ともなれば、さぞや成長した姿を見せてくれるだろうと、祖父母のような気分になっている。
『――県直塚市山手町の雑居ビルにある飲食店に十数名の集団が押し入り、同店にいた客ら数人を暴行するという事件が起こりました。うち二名は意識不明の重体――』
裏腹に、テレビからはひどく剣呑な情報が流れてきた。
直塚市。
東京の連中はこんな田舎の事件のことなんか、もしかしたら気にも留めていないのかもしれない。しかし悠平にとって、その市の名称は強く意識に残るものだった。否が応でも思考が引っ張られる。
楽しい気分に冷や水をぶっかけられた。
『――直塚市では同様の事件がここ数年続いており、県警では複数の少年を含む実行犯を検挙してきましたが、県内の不良グループによる対立が根底にあり事件が終結する気配がありません――』
兵隊は毎年補充されていく。いくら逮捕したって追っつきはしない。
知り合いの名前が読み上げられたわけでもないのに、ぼうっと立ち尽くしてしまった。本当ならこんなニュースに興味を持ってはいけないと思う。出来ることなら無視できるようになりたい。しかしまだまだ修行が足りない。耳は勝手に吸い寄せられてしまう。思考はどんどん地元に立ち返っていく。
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