放免祝い 1

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 くそ。  地元で一番の嫌われ者が、この国では所持すら許されないものを持って部屋に飛び込んできやがった。昨日までは平和に暮らしている大学生だったのに。今じゃ億円単位の白い粉を抱えた犯罪者だ。こんな不幸な奴はこの国に自分しかいないと思う。 「頼む、出ていってくれ、」  悠平は力なく胸ぐらから手を話して、絞り出すように言った。 「なんにも見なかったことにするから」 「おまえの指紋べったりだぞ」  心臓がキュウとなる。 「おれだって直接触ってねえのに、いい根性してるな。おれがこの束ひとつ、ぽんと万世橋警察署の前に放り投げたら、おまわりがここに駆け込んでくるな。地元の交友関係まで照会されたら、いくら言い訳しても簡単には解放されないだろうなァ」 「おれに嫌がらせがしたくて来たのか」  はん、と鼻を鳴らした。 「おまえがツレないこと言うからだろ。何年ぶりに会ったと思ってんだ。夏休みを利用して遊びに来たおれをもてなしたってバチは当たらないだろ、特にお、ま、え、は」  人差し指で胸をつつきながら憎たらしい口調で言ってくれる。なにが夏休みだ三六五連休のくせに――と悪態がつければよかった。  しかし悠平はうつむいて顔をこわばらせることしかできない。 「なァ、しばらく泊めてくれよ。なんたっておれはコレもんだし」  白い粉が満載したリュックを示して、佐輔はのたもうた。  悠平には頷くしか選択肢はない。  疫病神だ。
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