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アルファ
今や、自分のAIを作らない人は殆どいない。成人になれば、AI作成についての承諾書が日本AI管理機構から届く。
AIを作成すれば、様々なサービスに利用できる。
「えーあい?」
戸惑う文香に、鷺坂はこう説明した。
ここは婚活専用マッチングシミュレーションアプリ『アルファ』内で、自分は鷺坂大知の記憶を持ったAIである。
利用者は、自分と他の登録者のAIの相性をシミュレーションさせることが出来る。無料登録では100回シミュレーションをして、相性が良いかを判断する。オプション(課金)で、シミュレーション回数を増やすことも出来る。勿論回数を増やすほど、判断の精密さが上がる。シミュレーションの世界も、利用者の記憶から構築されているという。
「なにそれ? 私もAIなわけ?」
鷺坂は首を振る。
「いいえ。あなたはおそらく本体の意識を繋いだのだと思います」
「そんなこと、出来るの?」
「専用の機器があれば可能です」
鷺坂の言う『専用の機器』を、文香はゲームに使うために持っていた。
「じゃあ、私は本物ってわけね」
文香は見渡す。
「つまり、ここは偽物の私の部屋で、あなたも偽物の鷺坂くんだ」
鷺坂は苦笑する。
「偽物、と言っても、俺は昨日までの鷺坂の記憶も同期してますから。昨夜のあなたの失態も知ってますよ」
「な」
文香は顔を歪めた。
「それは消してください」
「出来かねます」
にべもなく言われ、文香は項垂れた。
「それにしても、何で鷺坂くんは私のベッドにいたの?」
文香の問いに、鷺坂は肩を上げた。
「それは、俺が文香さんと上手くいった場合の、鷺坂大知だから」
(え?)
「それって」
「この世界では、俺と文香さんは、夫婦ってこと」
AI鷺坂はそう言うと、に、と大きな口から歯を見せて笑った。
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