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もしかして、やっちゃった?
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テレビがついている。消すのを忘れたまま寝てしまったかと、文香は重い体を起こす。
昨夜は他県に異動する後輩の鷺坂大知の送別会だった。羽目を外し、文香は酔った。
「あぁー、飲み過ぎたなあ。失敗したぁ」
ベッドに再び寝転がると。
「いでっ」
男の声が上がり、文香は飛び上がった。
「え?」
文香は昨日の記憶を辿ろうとするが、タクシーに押し込まれたところで途切れている。押し込んだのは、鷺坂だ。そして、その後はーー。
(まさか)
「さき、さか、くん?」
「おはよう、文香」
そこには、半裸の後輩、鷺坂大知がいたのであった。
驚く文香をよそに、鷺坂は当然のように「朝飯何ー?」と欠伸をしながら言う。文香はそれに応えて簡単に用意した。リビングにあるテーブルで、向かい合って食べる。トーストと目玉焼きを、鷺坂は旨いとご機嫌で平らげた。
「そんなに美味しいの?」
「俺、何でも美味しくイけちゃうから」
それはそれで、何か語弊がある気がする。
文香がほんやりと鷺坂の食べる様子を見つめていると、彼は不思議そうに手を止めた。
「どうしたの? 食べないの?」
「あの」
「ん?」
鷺坂は二重瞼の大きな瞳で文香を見つめた。「鷺坂くんはねぇ、目元だけはイケメンよねぇ! 目元だけは!」などと職場の臨時職員の女性が言っていた通り、綺麗な瞳だと文香は思った。
「あなたと、わたしはその、したの?」
「したって、何が?」
「いや、その」
鷺坂はポンと、手を叩いて明るく言った。
「ああ、セックス?」
文香は椅子に座ったまま、仰け反った。来年には30になるが、そう言った単語を口にしたり耳にするのは未だに慣れない。
「そんなに驚かないでよ。てか、変だな」
鷺坂は立ち上がると文香に近付いた。ふんふん、と彼女の姿を上から下まで眺める。
「な、なに」
「そっか。君は文香の本体意識なんだね」
(え?)
「何言ってるの?」
鷺坂はす、と背筋を伸ばし、信じられないことを口にした。
「こんにちは、平井文香さん。俺は、鷺坂大知のAIです」
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